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19歳の聖女(イスタ)フィアナは、神の娘として修道院で大切に保護されてきた。しかし、一月前に重要な儀式で失敗し、その折に一部の記憶を失ってしまう。14歳から17歳まで、黒月(ヴァール)の城で過ごした三年間の記憶。空白の記憶を抱えるイスタの元へ、一通の手紙が届く。「イスタよ、城へお戻り下さい。黒い月があなたをお待ちです」 儀式の失敗以来、修道院に居場所の無くなっていたイスタは、黒月の城へと向かう──。
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ゴシック・アドベンチャー・ノベル。会話部分はウィンドウタイプのアドベンチャー形式、地の文は全画面のノベル形式。地の文は三人称で書かれており、ゲームとしては少々変わった仕様です。エンディングはトゥルー、バッド1、バッド2の三種類。特に難しい選択肢も無いので、攻略に困ることは無いでしょう。せいぜい最後の選択肢で迷う程度かと思われます。
二年前までイスタが暮らしていた上皇の居城「黒月(ヴァール)の城」。昨年上皇が亡くなり、今はノエル・シュヴァインが城主代理を務めている。かつて上皇に引き取られたイスタは14歳から17歳までの三年間を黒月の城で過ごし、その後、前触れもなく出奔して修道院へ戻ったという。なぜ突然城を出ていったのか、記憶を失った今のイスタには判らない。二年ぶりに城を訪れたイスタを迎えたのは、侍従長のバーン、侍女のリュシータ、双子の妹のフィオーラ、そして黒月(ヴァール)の騎士ノエル。ノエルはイスタに冷たい敵意を向ける。彼はイスタの何を許せないのか。この城で何があったのか。失われた記憶を取り戻すため、イスタは待ち人を探す──。
「罪びと」となった聖女(イスタ)の過去を探る短編。終盤までは特に大きな事件も無く、イスタと城の住人の交流が淡々と静かに描かれます。記憶を失ったイスタと、かつてのイスタをよく知る人々。無邪気に姉を慕うフィオーラ、物言いたげな視線を向けるリュシータ、イスタこそが彼を嫌っていたと言うノエル。彼らの言葉が示す『過去』は、何かが少しずつ違っている……。登場人物たちの些細な言動の裏に、真実が隠されています。クリアした後でもう一度読み返してみると、それぞれの台詞の意味や心情などが解って面白い。
主人公の聖女(イスタ)は人に生まれた神の娘。美しく心優しく、皆に愛される。単にそういう設定というだけでなく、彼女の言動を見ていると本当にどんな時も上品で清楚で思いやりがあり、「お姿だけでなく心映えもお美しくていらっしゃる……」などと拝みたくなってしまいました。彼女が皆に愛されるのはよくわかるし、もし自分も城で働いていたら、この心優しい聖女さまを好きになっただろうなと思います。感情移入するタイプの主人公ではありませんが、彼女の行く末を見届けたい気持ちで、先へ先へと読み進んでいきました。
インパクトで言えば、妹のフィオーラが最強でしたね。[体験版の時点で「黒いかも?」とは疑っていましたし、姉妹で騎士を挟んでドロドロの三角関係になるのかなあ、嫌だなあ、などと思っていたのですが、実はそっちの三角関係!?みたいな(笑) すっかり騙されてしまいました。フィオーラは愛するお姉さまにふさわしい貴婦人になるために、城でも毎日必死に勉強をして、自分を磨いてきたのですね。健気ではないですか。いじらしいではないですか。それほど一途に姉を想う心が嵩じて、ノエルを愛する姉を許せず、果てには姉を殺して自分だけのものにしようとしてしまう……。可愛さ余って憎さ百倍。鳴かぬなら殺してしまえホトトギス。いやはや、愛って怖いですね。最後の捨て台詞がこれまた最高です。果たしてリベンジの時は来るのでしょうか。がんばれフィオーラ。]
[けれど、侍従長のバーンが言っていたように、フィオーラも最初はただ、姉に憧れる素朴な娘だったのではないでしょうか。素直に姉を愛し、姉からも愛されていたのに、大切な姉を壊さずにはいられないほど追いつめられてしまった。それは悲しいことだと思います。フィオーラ視点の過去話も読んでみたいですね。]
本作の『愛する人は、あなただけ――』というキャッチコピーは主人公のイスタの言葉だろうと思っていましたけれども、クリア後に改めて考えてみると、ノエルやフィオーラも含めて三人それぞれに通じる言葉ですね。イスタもノエルもフィオーラも、ずっとただひとりの人を愛していたのですから。[しかしイスタやノエルの場合はロマンチックな言葉に思えますが、フィオーラだと一気にホラー風味になるのは気のせい?(笑)]
なんだかフィオーラのインパクトが強すぎて、「聖女と騎士の恋物語」というよりは「姉妹愛憎物語」という印象ですが、しっとりとした落ち着きのある短編でした。製作サイトには「女性向け」と書かれていますが、内容的にはほとんど一般向けと見て差し支えありません。清らかな聖女も健気な侍女もアレな妹も萌える。男性でも問題なく楽しめるでしょう。古き良き少女小説を思い起こさせる、細やかで美しい物語です。
(2006年1月31日)