- フリーゲームレビュー -  │HOMEADV:現代(1)


図書室のネヴァジスタ THE FOOL

初めてチャットルームに入室したケット・シーを、常連たちは温かく迎え入れる。このチャットルームは、とあるジャンキーサイトの裏の顔。ネヴァジスタに選ばれた者だけが入れる薬物中毒者の集い。そして今は、四月初日に行われるドラッグ・パーティの話で持ちきりだった。初対面の参加者同士が同じ屋根の下で一週間を過ごし、各部屋にパソコンを置いて毎晩0時にチャットする。全員のハンドルネームを一番最初に当てた者に、主催者のネヴァジスタから賞品が渡されるという。賞品は五キロの覚醒剤──末端価格で二億を超す代物。ネヴァジスタは、七人のジャンキーに告げた。「さあ、みんな、パーティを楽しもう」



2008年エイプリルフール企画ゲーム。サスペンスADV『図書室のネヴァジスタ』(2008年4月現在開発中)のキャラクターを使用したパラレルもの。本編とは全く別の設定、配役、ストーリーになっているので、本編を知らなくても支障はありません。

洋館に集められた八人の参加者。その中に紛れている主催者のネヴァジスタ。エイプリルフールに行われる、二億円相当の賞品を賭けたハンドル当てゲーム。物語は各人物の視点、チャットログ、幕間という三つのパートを繰り返しながら進んでいきます。

チャット上の人物は、主催者の「ネヴァジスタ」、新参者の「ケット・シー」、挑発的な「エイプリル」、ネカマの「ミルク」、無口な「K」、敬語の「ゴースト」、怖そうな「イギー」、幼稚な「クランケ」。

それぞれのモニターの向こうでキーボードを叩いている人物は誰なのか。誰が何を演じているのか。互いの正体を探り合いながら、参加者たちが顔合わせを済ませた一日目の夜、「クランケ」こと御影清史郎の死体が発見され……。

「残念ながら、招かざる客が君たちに混ざっている。パーティを嗅ぎつけた警察や、賞品の元の持ち主──マフィアの手の者、そして、復讐者」

クランケの死と、参加者の中に紛れている不穏分子の存在。焼却炉で燃やされていた「ミルク」所有の調査ファイル。二年前のドラッグ・パーティ。部屋に篭って姿を見せない謎の人物、石野。参加者たちは互いに疑念の目を向けるようになり、ゆるやかに崩壊が始まっていきます。

個々の視点、チャットログ、幕間。それぞれのパートで登場人物たちの台詞の中に含まれた情報を吟味し、各パートの情報を照らし合わせ、組み立てて推理していく。この作業が、とても面白かった。特に各人物の視点パートは、消去法で人物の絞り込みが出来るので非常に有用です。頭の中だけで考えても整理しにくいので、本気で取り組みたい方はメモを取ることをお勧めします。(私は概ね全員わかりましたが、メモを取っていなければ厳しかったかも)

本作の登場人物は『図書室のネヴァジスタ』のキャラクターを使用されてはいますが、年齢も含めて様々な設定が別物となっています。とはいえ、やはり本編を知る者としては本編の人物像を重ねて見てしまうわけで、結果としては大いに翻弄された形となりました。本編を知っているからこそ騙されてしまうミスリードが多く仕込まれているので、『THE FOOL』を十二分に楽しむためには、先に本編の体験版をプレイしておくことをお勧めします。

参加者の中でも、パーティの主催者であり黒幕である「ネヴァジスタ」の正体は念入りに隠され、幾重にもミスディレクションの罠が張り巡らされています。彼の正体、そして彼の心に巣食う闇の正体が、本作の物語の肝であると言えるでしょう。ある程度ネヴァジスタの正体を予測していても、彼の正体が明らかになった瞬間は震えがきました。

全てが終わった後、メニューに「登場人物紹介」が現れ、クランケを除いた登場人物七人のハンドルネーム入力を求められます。正しいハンドルネームを入力すると、それぞれの人物の詳しい背景、動機、顛末を記したデータが現れ、物語の全貌が明らかになります。そして全ての人物のデータを見た後、エピローグの「幕間9」が現れ、ある人物からネヴァジスタに遺された最期の言葉によって、物語は幕を引きます。

システム面での不満を言うと、「登場人物紹介」で一度ハンドルネームの入力に正解した後は、入力無しですぐに人物データが出るようにしてほしかった。また、画面構成は本編体験版より改善されていますが、やはりどうも発言者が判別しにくいような。バックログに台詞主の表示が無いのは相変わらず(チャットログ以外)。シナリオの性質上、バックログを読み返して台詞内容を確認することが多かったので、バックログで誰の台詞か判らないのは困りました。

個人的に驚いたのが、シチュエーションだけ最初に決めて配役はクジで決めたというスタッフさんの裏話です。確かに警察や[探偵]あたりは誰でもいいような気もしますが、ネヴァジスタは彼しかいない!というほどピタリと嵌まっていましたけれども。ネヴァジスタが別の人物なら、また全く違うストーリーになっていたのでしょうね。別の配役バージョンも読んでみたい気がします。

物語を終えた後も、“彼”の遺した言葉が心に残り、その言葉を遺されたネヴァジスタを思い、胸に迫る挿入歌と共に、しばらく余韻から抜け出せませんでした。登場人物の正体と物語の全貌を知ったうえで、もう一度最初からプレイしてみると、それぞれの人物たちの些細な言動の裏に、こんな意味があったのかと改めて唸らされました。エピソードの中に[二年前]のものが仕込まれていたのは、一周目では気付きませんでしたね。やられた。フーダニットのミステリーとしても秀逸で、一つの物語としても余韻の残る良作でした。

(2008年4月13日)


【ジャンル】ミステリーノベル 【プレイ時間】1時間半 【容量】53.4MB 【ツール】吉里吉里2/KAG3 【参考】ピックアップ投票結果

【HP】TARHS(タース・エンターテインメント) http://www.tarhs.com/