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世の中には悲しいことが溢れていて、自ら命を絶つ人の数は増えるばかり。そんな「セツナ病」患者のために作られた白い街。黒目は「封士」として街に住み、彼らの悲しく辛い「錆色の記憶」を封じる仕事をしている。新しく黒目の客になった少女「ラ」は、長期の治療が必要な重症患者だった。とめどなく涙をこぼす彼女の「錆色の記憶」が消えるまで、二人は八番街の丘の家で一緒に暮らすことに……。
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悲しみを癒す白い街で出会った青年と少女の物語。全九話で構成されており、第一話は黒目視点、第二話はラ視点というように、各話ごとに視点を変えながら一人称で進行します。柔らかなグラフィックとオルゴールの音色が心地よく、飾らない文章で綴られる物語は暖かく優しい。登場人物の心の機微が細やかに丁寧に描かれており、彼らの素朴な言葉が心に残ります。ともすれば暗くなりそうな題材ですが、穏やかな気持ちでじっくり読ませてくれました。
街を訪れる患者や封士たちと出会いながら、黒目とラの日常がゆるやかに描かれ、二人の抱える秘密も少しずつ明らかになっていきます。黒目が列車の中で目を覚ました時から、既に始まっていた物語。「記憶」という題材が巧妙に使われており、後半で明かされる真実には驚かされました。クリアした後でもう一度最初からプレイしてみると、随所に何気なく伏線が散りばめられていたことが判り、また別の視点で楽しめました。
黒目は「目」を使う封士で、リップスは「唇」を使う封士ですから、右手さんはやはり「右手」を使うのでしょうね。封士は能力に応じた名前を与えられるのでしょうか。そうすると、キョウの由来は「香(きょう)」、アナライの由来は「analyze(分析)」? それぞれの封士の能力や仕事ぶりなども、もっと詳しく見てみたかった気がします。
2003年5月にコミックメーカー版、2006年6月に吉里吉里によるリメイク版が公開されました。リメイク版では操作性の向上はもちろんのこと、オープニングムービー、オリジナルテーマソング、新立ち絵、新スチル、新シナリオなど様々なものが追加され、大幅にクオリティアップしています。中でも、オープニングムービーは素晴らしい。使い回しの絵が一枚も無く、全てムービー用に描き下ろされているのが凄い。
旧版では全員の立ち絵が揃って左向きだったりして違和感がありましたが、リメイク版では新しいポーズが追加され、キャラの仕草が増えて表現も豊かになりました。三年間でかなり絵が変わっているため、旧イラストと新イラストの落差が気になりますが、それはまあ、仕方がないでしょうか。
リメイク版の追加シナリオである第三話「オセロゲーム」には、ちょっとした仕掛けがあります。最初のプレイではいまいち曖昧な内容で終わるので釈然としませんが、二周目以降に加わる“あるもの”によって、第三話の本当の意味が解る仕組み。ぜひクリア後も、再プレイしてみましょう。
旧版は「地味な良作」という印象でしたが、リメイク版の洗練ぶりを見ると、もはや「地味」とは言えないかもしれません。今までツールがコミックメーカーということで敬遠していた方も、この機会にぜひプレイされることをお勧めします。
| 一話 雪と街と始まっている話 snowy town & a story begins. [黒目] | |
| ラを街へ案内して連れてきた喫茶店「AROMA」で、黒目は同僚のキョウから飛び込みの依頼を紹介される。依頼主は幼い少年のマルシェロ。
マルシェロは出来の悪い自分を疎み、優しい両親の期待に応えられない自分を許せずにいた。 「僕の記憶を全部消して欲しいんです」 |
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| ニ話 逃げて行くひと I have deceived myself. [ラ] | |
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洗濯物を干しに庭へ出たラは、庭に女性が潜んでいるのを見つける。イリーナと名乗った女性は、街の滞在許可証を持たず不法侵入したセツナ病患者だった。彼女は早くに母親を亡くし、貧しい家庭でひどい父親と共に暮らしていたという。 「だから、お願いします。私から家族という『錆色の記憶』を消してください」 |
| 三話 オセロゲーム In my hands. [黒目] | |
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喫茶店「AROMA」でオセロゲームをしていた黒目とラは、店長のキョウから仕事を頼まれる。三番街の屋敷が近々取り壊しになるため、事前調査をしてほしいというのだ。その屋敷は幽霊が出るという噂があるらしい。 「幽霊でも何でも、またひと目会えて嬉しいと思ってしまった」 |
| A break time 勝負の行方 I will win ! [キョウ] | |
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封士として仕事をする傍ら、喫茶店「AROMA」を経営しているキョウ。同僚の黒目が定期連絡のために中央舎へ出向いている間、キョウがラを預かることになった。キョウはラに、黒目と初めて出会った頃のことを語る。 「俺、あいつのことめちゃくちゃ嫌いだったんだよ」 |
| 四話 自由にならないもの Can't put it into words. [黒目] | |
| ある日、ラが庭で迷い込んだ子犬を拾ってくる。子犬の飼い主は、七番街に住む封士のリップスだった。彼女は一週間ほど前から毎日「AROMA」に通っているらしい。同じ頃、街では反政府組織による爆破事件が頻発していた。 「私から盗ったものを返してちょうだい」 |
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| 五話 さよならの準備 Will you praise me if I can say good-bye well ? [ラ] | |
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風邪をひいてしまったラは、黒目と一緒に病院へ行き、 かつて黒目の教官だった老婦人を見舞う。老婦人は高齢のため、さまざまなことを忘れていた。 「ラ。これは悲しいことじゃないよ。先生はああやってゆっくりと、離れがたいひとたちと別れる準備をしているんだ」 |
| 六話 歌 La [黒目] | |
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懐かしい歌を聞いたような気がして、黒目は目が覚めた。歌のことをラに尋ねられないまま、黒目は一人で買い物に出かける。五番街の廃教会に立ち寄った黒目は、S級封士のアナライのことを思い出していた。ひとときの間、アナライから預かっていた仔猫のことを。 |
| 七話 雨と仔猫と終わってしまった話 A cat got wet through in the rain & a story comes to an end. [黒目] | |
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黒目がアナライと出会ったのは三年前、封士になったばかりの頃だった。五番街の路地で雨に打たれている黒目の前に男が現れ、黒目に銃を渡した。 「そこで死にそうな顔をしている君。この銃をあげるから、先に私を殺してはくれないか?」 |
| 終話 TRUE REMEMBRANCE [黒目] | |
| いつかきっと、ラの涙がとまる日がくるだろう。 | |
(初稿:2003年6月10日) (改稿:2006年6月18日)