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197X年、夏。大学のサークル仲間の大野に誘われ、伊豆の山奥にある彼の別荘へやって来た主人公たち。それぞれ気ままにバカンスを楽しむが、翌日、メンバーの首切り死体が発見される。折しも嵐で川の橋が流され、別荘に閉じ込められてしまった。犯人は、この中にいる……?
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男女八人が嵐の山荘に閉じ込められる本格ミステリーノベル。まずは『首切りの館』編で第一の殺人が発生します。この時点で推理を成功させ、事件解決できれば良し。できなかった場合は翌日の『首吊りの館』編へ移行し、第二の殺人へ。最初の事件で推理を失敗しても、リベンジのチャンスがあるのは嬉しい。
本作の特徴は、正解の他に幾つもの推理パターンが用意されていること。そして、いずれも筋が通っている(ように見える)こと。明らかに間違った推理パターンを選んでみても、それなりの推理になるのが面白い。多様な推理が本編中の様々な伏線と連携していく様は、なかなか壮観です。
間違った推理でも主人公が実にもっともらしく語ってくれるので、「答えはこれだ、これしかない」という気になってくるのですが、最後には影の名探偵・梶浦にあっさり突っ込まれて玉砕。ほんのわずかでも推理に穴があると、容赦なくそこを突かれます。主人公の推理の矛盾を理路整然と指摘する彼の論理には全くもって隙が無く、頭をたれるしかありません。推理しては突っ込まれ、推理しては突っ込まれを繰り返しているうちに、だんだん奴のことが憎らしくなってきます。じゃあ、とっととお前が真相言えよ(逆ギレ)。
事件の推理とは直接関係の無いところで、本作には、あるトリック(引っかけ)が用意されています。『首切りの館』編のラストで、その事実が明らかになるのですが、明かされ方が地味すぎて、サプライズとしてはいまいちでした。[大野]の[主人公]への好意は[ホモ]と捉えることもできるので、結局、[主人公の性別]を表しているのは「魅力的な異性ではあっても」という一節のみなのですね。トリックの内容自体は面白いので、もう少し種明かしの方法を工夫してほしかったような。
『迷いの森』編は本編クリア後のおまけシナリオ。ホラーかと思いきや、きちんと現実的に解決してくれます。実を言うと、本作の一番のオススメは迷いの森へ入る前のギャグパート。主人公が己の人間の尊厳を賭けて戦う一大叙事史──ぶっちゃけて言うと、腹をこわした主人公がトイレを探して奔走する内容なのですが、これが笑えるのなんの。やたらと格式張った言葉遣いの主人公が、我が身の危機を文学的表現で超真剣に実況していくのが面白すぎて、腹を抱えて笑ってしまいました。
表現がいちいち絶妙で、言葉のセンスが只者ではありません。仮にも[女子大生]の主人公にここまでさせてしまう作者、恐るべし。必死の奔走の果てに堤防が決壊してカタストロフを迎える主人公は哀れすぎて正視できない。
定番のクローズドサークルながらも隅々まで緻密に練られており、実に歯ごたえがありました。ロジカルな推理の組み立てには、思わず唸ってしまいます。筆力も高く、整った文章が心地よい。「本格」を求めるミステリーファンに打ってつけの作品です。推理に興味の無い方にも、『迷いの森』編のギャグパートはぜひ見ていただきたい(笑)
(2007年2月18日)