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ずろうの棲処(前編)

高校一年生の琴平葉子は、偶然会った中学時代のクラスメイトにバイトを紹介され、新潟県の山奥にある旧帰島背村へ行くことになる。旧帰島背村は、かつて炭鉱から出た毒による公害で村人が死に絶え、廃村になった場所。今回、数少ない村の生き残りの集いが催されるため、葉子はその手伝いとして雇われたのだった。旧帰島背村のバイトを紹介された日から、葉子の前に幽霊が幾度も現れ、「行かないで」と警告するが……。



洋館を舞台にしたホラーアドベンチャー。前編は主人公の葉子が旧帰島背村の館へ赴き、村の生き残りが全員集まったところで終了。前編というよりは、プロローグに近い内容です。

本作の最大の特長は、恐ろしいほどにグリグリ動きまくりの動的演出。ほぼ常に画面に何らかの動きがあるため、目を離せません。次から次へと新しいグラフィックが惜しみなく投入され、動く、動く。LiveMakerはプレイする側としては不便な点も多く、あまり歓迎したいツールではないのですが、ここまで見事にLiveMakerのアニメーション機能を活かし、十全に使いこなしているのを見せられると、文句はありません。本作はLiveMakerの可能性を形にして世に示した、先駆者的な作品と言えるでしょう。

第二の特長は、美しい写真加工。一般的に、ビジュアルノベルにおいて写真背景はユーザーに敬遠されがちです。どうしても立ち絵などが浮いてしまうし、イラスト風に加工された写真でも、やはり違和感のあるものが多い。本作は、その点を完璧にクリアしています。写真でありながら、写真の野暮ったさが無い。それでいて、写真特有の美しさも損なわれてはいない。どのように加工すれば、この絶妙な質感と色合いを出せるのでしょうか。コンビニさえ美しいなんて(笑)

心霊ホラーっぽく幽霊も登場しますが、今のところ葉子に接触してくる幽霊は、葉子を危険な場所(旧帰島背村)から遠ざけるために動いており、葉子を守ろうとしてくれる存在であるため、幽霊への恐怖はさほど感じません。東京で葉子の元に現れて警告した大人の幽霊と、葉子の夢の中に現れて警告した少年の幽霊、二人の善意の幽霊がいますね。少年の幽霊は右手に何かを持っているようですが、これは何なのだろう。

現時点では幽霊よりも、忍び寄る人間の悪意が怖い。犯人の目的は村の生き残りの皆殺しなのでしょうけれど、何故その催しに葉子が呼ばれたのか。わざわざ知人のリカを介して葉子を旧帰島背村へ呼び寄せ、なおかつリカを殺す念の入り方。葉子の身には、葉子自身も知らない帰島背の因縁があるのでしょうか。葉子の亡くなった父親が関係しているのかもしれません。

前編をプレイした印象では、とりあえず用務員の吉日さんが怪しい。帰島背メンバーの中で、葉子と以前から関わりの有る唯一の人物であるし、葉子と吉日の出会いエピソードが妙に詳しく描かれていたのも気になる。高校受験で絶対に落ちていたはずの葉子が、吉日に相談した後、なぜか合格したというのも引っかかる話ですね。帰島背メンバーの他の親父たちが全員、自分の子供を同伴しているのに対し、吉日だけは独りというのも怪しい。(昔、帰島背で家族を失った? それが今回の殺人計画の動機?)

洋館への道中で帰島背鉱毒事件について語られる場面がありますが、何気にこれが前編の中で最も怖かったような気も。幼児が描いたような拙いクレヨン画で当時の様子が描かれており、最初は笑って暮らしている村人の絵、そして井戸から湧いた毒で皆が死んでいく絵。青く塗りたくられた死人たちの絵を見た瞬間、背筋が寒くなりました。お試し版のラストに出てきたクレヨン画(喉を掻き切られた血染め葉子?)もなかなかでしたが、あれはお試し版限定だったのでしょうか。それとも、後編でも出てくるのか。

ギャグも多く盛り込まれており、本筋から逸れた選択肢を選ぶと、いきなりぶっ飛んだギャグENDへ。初対面の男の子に「あたいじゃたちませんか!?」とノリで告白してみたり、突如メイド道に目覚めたりと、変な主人公で笑える。彼女を性的に襲うと、引っこ抜かれるらしい。ホラーとギャグのギャップが激しいので、戸惑う人もいるかもしれません。主人公も他の登場人物も、やたらと呑気でズレたキャラばかりなので、このメンバーで本当に惨劇が起こるのか?と疑ってしまいます。

製作サイトでは一応「ホラー乙女ゲーム」と自称されており、確かに男性キャラとの恋愛要素っぽいものも若干あるような気がしないでもないですが、前編をプレイした限りではバリバリ一般向けなオーラを放っていて、乙女っぽさは全くありませんでした。作者さんが男性だからでしょうか。甘ったるい乙女ゲームが苦手な身としては、こちらのほうが有り難い。男性も女性も普通に問題なくプレイできるでしょう。

前編はほとんどプロローグの段階で終わっているので、シナリオについてはまだ何とも言えません。今のところ、後編が公開される見通しもありません。しかし、本作の美術面の素晴らしさは、それのみで既に一つのエンターテインメントを形成していました。今後、後編が出るにしろ出ないにしろ、前編だけでも充分に鑑賞に値する作品です。

(2007年5月1日)


【プレイ時間】1時間 【ツール】LiveMaker 【容量】123MB 【参考】ピックアップ投票結果

【HP】「キタユメ。」 http://www.geocities.jp/himaruya/