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空の上のおもちゃ

総評:7
★★★★★★★☆☆☆
システム:7│シナリオ:7│グラフィック:7│サウンド:7
澤田克之は清潮高校二年生の天文部員。疥癬を患い、夏休みも雪雄先輩と共に寮に残っていた。ある夜、何気なく窓の外を見た克之は、しっぽの生えた女の子がグラウンドで踊っているのを目撃する。そして翌朝、目覚めた克之のおしりには、なんとしっぽが生えていた……!?




概要
対象年齢 - 18禁
価格 - 2500円
動作OS - Windows98/98SE/Me/2000/XP
頒布日 - 2005年8月14日
パッケージ - DVDトールケース
ブックレット - 無し
プレイ時間 - 10時間
ツール - NScripter
セーブ - 100個
画面 - 800×600
スチル - 74枚 (差分含む)
背景 - オリジナル
音楽 - オリジナル25曲、主題歌「空の約束」、挿入歌「君の声」、エンディングテーマ「Over the world , Over the sky」
オプション - ボイス音量調節、BGM音量調節、効果音音量調節、画面モード選択、オートクリックの仕方、オートクリック速度、メッセージ速度、メッセージスキップ選択、ボイス再生中のBGM調節、クリックでボイスをカット、各キャラのボイス音量、雪雄の下品さ
メニュー - CG鑑賞、Hシーン回想、サウンド鑑賞
備考 - OPムービーあり、WEB体験版あり


シナリオ
ある朝、突然しっぽが生えてしまった克之。同じくしっぽを持つ城谷春野と知り合い、しっぽのために月の絵を描く彼女を手伝うことになる。折りしも月で原因不明のTLP(発光現象)が発生し、雪雄先輩はそれに夢中になっていた。学校の敷地内にある研究所跡の廃屋で絵を描いている春野を訪ねると、床が抜けて地下道へ落ちてしまう。そこへ謎のしっぽが襲ってきて……?

茨城の山奥にある全寮制の高校を舞台としたSFファンタジー。製作サイトでは「ほのぼのSFファンタジー」などと無害そうに銘打たれていますが、半端マニアソフトさんの作品において、当然そんなものを信じてはいけません。

前半はしっぽの謎や伏線を絡めながら、半端マニアソフトさんならではの小気味よい軽妙なテキストで、下品で愉快な青春物語が繰り広げられます。やることなすこと無茶苦茶で変態な雪雄先輩と、それに振り回される苦労人な主人公の克之の掛け合いがとても楽しい。 トキワ荘だの通常の三倍だの北斗神拳奥義当門穴破指挿だのSEED袋だの、オタクネタや下ネタも満載で、このバカバカしさが何ともいえない。カノープス=長野まゆみがサラッと出てくるあたりも侮りがたし。テキストの随所に小ネタが仕込まれていて、笑いっぱなしでした。変態な先輩に冷静にツッコミを入れる克之君は、可愛い顔して口が悪い。かと思えば、雪雄先輩と一緒になって馬鹿バトルしてしまうところもあって、微笑ましいですね。こういった男の子同士のくだらないやり取り、男臭い青春を書かせたら、渡辺僚一氏の右に出るものはいないのではないでしょうか。

前作のフユガミのギャグは少し人を選ぶタイプだったように思いますが、今作のギャグはアクが取れて、わりと一般向けになった気がします。下品なことに変わりはありませんが、下品ではない半端さんは半端さんではありませんので問題なし。下品なネタは、ひとつ間違うとただ不快になるだけという危険性もありますが、本作ではちょうど上手い具合にバランスがとれていて、思わず笑ってしまいます。

月を見ると喜ぶしっぽ。月の発光現象。研究所跡に隠された謎の地下道。地下道で克之たちを襲ってきた謎のしっぽ。しっぽと月には何か世界を揺るがすような秘密があって、それを利用しようとする研究者たちがいて、克之たちは恋や青春を繰り広げながら、大切な人を守るために戦うのねっ。 ……などと体験版プレイ時に予想していたのですが、全く違いました。(いや、一部合っている……?)

なんと後半は時代も舞台もガラリと変わり、戦時中の満州へ。遊郭に売られた薄幸の少女と、有尾人を追い求める人類学者の物語へと移ります。米大統領ルーズベルトの死去、第二次世界大戦の終結、岸内閣の発足、安保闘争。当時の史実を基盤として、有尾人を巡る歴史の暗部が描かれ、秘められていた世界の理が明らかになります。ちなみに蜂須賀正氏が有尾人を探してフィリピンを探検したのも史実らしい。そして物語は再び克之の時代へ戻り、終息へ。

全て読み終えて判ったのは、本作は“彼女”の物語だったということ。彼女の不幸な人生に心を痛めてきたぶん、ラストシーンの彼女の心からの笑顔には涙が出ました。反面、雪雄先輩たちの影がすっかり薄くなっているため、彼らの活躍を期待していると肩透かしをくらうでしょう。

あちこちに多くの謎を残したままであることも、賛否の分かれるところかと思います。意図して謎を残しているのは判るのですが、伏線を出すだけ出して放置されても困る。そんな風に残ったままの謎が一つや二つではなく十単位となると、すっきりしないどころではありません。物語の中で提示した謎や伏線は、物語の中できちんと回収してほしい。

しっぽの正体は何だろう?と体験版の頃からいろいろ考えてはいたのですが、まさか[超ひも理論(物質の最小単位は粒子ではなくヒモであり、宇宙の全てのものが振動するヒモで出来ているという理論)]に関連して[世界の根幹]へ繋がっていたとは、心底予想外でした。「やられた」という感じですね。

大三郎たちは、しっぽ(大きなヒモ)としての形は消えてしまったけれど、今も克之たちの世界で、無数のヒモと共に美しいメロディーを奏でているのではないでしょうか。あのまま消えてしまったと思うと悲しいので、私はそう思っておくことにします。


システム
「Prologue -TAIL STALKER-」「#2 キミとボクとしっぽとしっぽ」「#3 THE THIRD TAIL OF SWIRL」「#4 キミとボクの渦巻き理論」などの全16章で構成されており、一つの章を読み終えた後、チャプター画面で新しく出現した章を選択して次へ進みます。いつでも好きな章から読むことが出来るので便利。いちおう選択肢はありますが、どれを選んでも結果はほとんど同じで、ストーリーの分岐はありません。

本作には“仕掛け”が用意されており、シナリオの前半と後半でインターフェースがガラリと変わります。ゲームのタイトル画面も二つ、DVDパッケージのジャケットイラストも二つ。ジャケットの表側には春野や克之たちの爽やかなイラスト、裏側には後半で登場する重要人物のイラストがあり、リバーシブルな仕様になっています。セーブ画面などのデザインも全て二つずつ用意されており、かなり凝った作りです。

セーブ・ロードは100箇所可能。アマチュアのゲームでは特にセーブスロットが足りなくてやりくりに苦労することが多いので、これくらい余っていると安心しますね。文章量考慮式オートクリック機能、細かなボイス設定、ボイス再生付きのバックログ。ログ画面横のバーにボイス部分を示すマークがあって、それをクリックすることで該当部分へジャンプすることも出来ます。ゲーム初回起動時には音声付きのチュートリアルもあったりして、無駄に凄い。ちなみにオプションの中には「雪雄の下品さ」なるものがあり、「小太郎ライク」「道明ライク」を選択できます。フユガミファンには笑える仕様ですが、実際には選択しても何も変わらないようで残念。

前作『冬は幻の鏡』(フユガミ)は誤字脱字も異常に多く、あちこちが大雑把で粗だらけでしたが、今作ではそれらが全て改善され、より使いやすくスマートになっています。インターフェースが格段に洗練され、プレイしていて心地よい。細かい不満点を挙げるとすれば、メッセージウィンドウのメニューをキーボードで操作できないこと、後半の文字が小さくて読みにくいこと、後半のバックログが使いにくいこと、オープニングムービーの鑑賞モードが無いことでしょうか。


グラフィック
「ネコにテルミン」のkashmir氏が原画・着色を担当されています。ザクザクッとしたラフな描線が独特で、ゲームっぽくない塗りが新鮮かも。可愛らしい絵で、『空の上のおもちゃ』の世界観にも合っていますね。背景画は文句なくカッチリ綺麗で、演出のクオリティも安定しています。


サウンド
主題歌「空の約束」のイントロが、とても良い。どこまでも広がる青い空を思わせるような。青空の向こうに在る宇宙の神秘を感じさせるような。ゲームを起動させて、このイントロを聴くたびに、わくわくするような、切なくなるような、そんな不思議な気持ちになります。

女性キャラのみフルボイス。それはもう、性別が女性であるキャラは全員フルボイスでして、遊郭の老婆もバーのママも通りすがりのおばさんも、皆ボイス付き。なのに本作で一番の萌えキャラである雪雄先輩のボイスが無いとは、どーゆーことですか。半端マニアソフトさんなら当然、男性キャラのボイスも付けてくださるだろうと思っていたのに、ガッカリです。いまどきのナウなエロゲーは男性キャラのボイスなんてあって当たり前だというのに、遅れています。前髪がやたらと長くて目の無い主人公と同じくらい時代遅れです。


総評
前作の悪い点は改善し、良い点はそのままに、さらなる質が高められており、総合力が格段にアップしています。二作目として理想的な、正しいあり方ですね。ただ、人を選ぶ作品といいますか、あまり万人向けとは言い難い。ロマンのある世界観で、読ませるシナリオではあるのですが、置いてけぼりをくらう人も確実にいるでしょう。このあたりは、人それぞれとしか言いようがありません。私などは初回プレイより二回目のプレイで面白いと思ったクチですので、クリアした後にもう一度読み返してみるのも良いかもしれませんね。
(2005年10月11日)


【製作HP】「半端マニアソフト」 http://hanpamania-soft.com/ (WEB体験版・OPムービーDL可)

【参考1】半端マニアソフト様インタビュー 【参考2】ピックアップ投票結果

【原画HP】「lowlife(ネコにテルミン)」 http://picnic.to/~kashmir/